トヨタの60年先を行く明太子ふくやのCSV経営

企業分析

 トヨタ自動車が、燃料電池車の特許を無償で公開したことが話題だ。自社ノウハウを公開し、市場全体を拡大させ、ビジネスチャンスにつなげる手法は、今注目される「CSV経営」を実践する良い例である。しかしトヨタがCSV経営を行う遥か60年以上前に、同手法を用いて新たな市場を創造した会社がある。明太子メーカーの「ふくや」だ。

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トヨタの実践するCSV経営ってどんなこと?

 トヨタ自動車が、燃料電池自動車に関する5,680件に及ぶ特許を無償で提供することが大きな話題となっている。

 燃料電池自動車の心臓部や、水素タンク、システム制御関連など、通常ではライバルに明かさない技術の核心部分が含まれているからだ。

 なお、インフラとなる燃料ステーションに関連する特許の提供に関しては、通常の費用に対して約5〜8倍の設置コストがかかることから開示期間に期限すら設けていない。
 
 特許の提供により国、ライバル、インフラ企業を世界規模で巻き込み、新たに数十年先も続く燃料電池自動車市場を作るのがトヨタの狙いと見られている。

 構想が一社単体で成し遂げられないことは、トヨタ自身が一番よくわかっているはずで、合理的な判断といえよう。

 今回のトヨタが行う燃料電池自動車に関する一連の動きは「CSV経営」に則った(のっとった)ものだ。
 
 CSVとは「Creating Shared Value」という言葉の略で、日本語に訳すと「共通価値の創造」であり、ハーバード大学・経営大学院教授のマイケル・E・ポーターが中心となり提唱している概念である。

 一見利益にならないが公共に有益な分野への投資や情報開示を行ったり、社会的責任を果たそうとする動きを率先して担うことで、より多くのメンバー(消費者/ライバル企業/国・地域)に共感を得て市場参加してもらい、「共に社会のためになるビジネスを生み出していこう」というコンセプトの元、新たな市場を想像する経営手法が「CSV経営」だ。
 
 海外を舞台に戦う味の素やファーストリテイリングも、近年この手法によって、未開拓の市場を切り開こうとしており、注目度は非常に高い。

 しかし、我が国における近代CSV経営のパイオニアかつ成功者は、トヨタでも味の素でもファーストリテイリングでもない。

 CSV経営という言葉の概念すらない時代に実践者として成功した、明太子の最大手メーカー「ふくや」である。

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トヨタの60年前に実践 ふくやのCSV経営

 「ふくや」の創業者である川原俊夫は、1913年(大正2年)に当時日本に所属していた韓国の釜山市で生を受けた。
 
 日本の第二次大戦敗戦後、韓国から引き揚げ、実家のある福岡へ戻った川原は、中洲市場で食品卸売業を営む「ふくや」を開業した。そこで1949年(昭和24年)に自社の強みを持つために開発された商品が、釜山で食べた明太により着想された「明太子(辛子明太子)」である。※1
 
 川原は明太子を長い歳月をかけて開発したにも関わらず、商標登録や製造法特許も取得せず、製造方法を知りたいと希望する人間には、誰にでも惜しみなく製法を教えた。
 
 ただし、調味料の配合、粉唐辛子の製法だけは自社の企業秘密としたことで、様々なメーカーが苦心しながら、川原のノウハウを土台にオリジナル風味の明太子を開発した。

 それに輪をかけ、交通網の発達(空港/新幹線の開設)やTVメディアの隆盛が起こったことで、明太子は一気に博多の食文化として全国へ広まり、新たな市場が創出されたのだ。
 
 明太子市場は今や、年間消費3万トン、売上高約1,000億規模の巨大市場となり、ふくやは、現在でも売上高150億、明太子業界内でNO1のシェアを誇っている。※2※3※4

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規模が小さいほど覚えておきたいCSV経営

 自社技術をなんでも惜しみなく公開すれば良い、CVS経営で成功できると言うわけではない。
 
 1)広めることが社会的に有益で、2)自社の商品が徹底的に差別化され、3)オリジナルの核心部分について真似されにくいノウハウがなければ、CSV経営はなりたたず、実行することが命取りとなる。

 ただし、限られた資本と時間の中で市場を創りださなければならないのは、中小企業の宿命である。

 もし自社が本当に社会的に有益な良い商品という土台を持っており、新たな市場を創造したいのなら、多くのプレイヤーの共感を得て巻き込んだほうが効率的だ。

 巨大企業が掲げるCSV経営には想像が及ばなくとも、私達がふだん食べる明太子が、CSV経営を通じてメジャーな惣菜となったことは、ぜひ覚えておきたい。
  
※1 2013年 川原健著「明太子をつくった男 〜ふくや創業者・川原俊夫の人生と経営〜」海鳥社出版
※2 帝国データバンク 2011 年辛子明太子業界調査
http://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/s110902_80.pdf
※3 かねふく 明太子物語
http://www.kanefuku.co.jp/story/nym14.htm
※4 ふくや リクナビ内採用情報ページ
http://job.rikunabi.com/2016/company/top/r572600021/

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