ドナルド・トランプ氏が顧客や支持者に仕掛ける心理トラップ

経営

 海外旅行の土産店では、ふっかけ価格を大幅に値下げしても、販売者に十分な利益が残るような交渉が行われます。従って顧客は商品を高い値段で購入せざるを得ません。顧客の頭には最初のふっかけ価格が残り、その価格と比較するプライミング効果が働いているからです。実は米国大統領候補・トランプ氏も同じ手法で、これまで大儲けしてきました。プライミング効果にはまらぬ方法とは?

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現代社会と古来社会における商品価格の決め方

 現代社会では、殆どの小売店の商品に「定価」(あるいは「標準小売価格」)が明示されており、消費者は基本的にその価格で購入します。

 価格交渉することはあまりありません。

 値段が数百円から数万円くらいの金額で買える商品であれば、いちいち価格交渉する時間がもったいないですからね。

 また、身近な商品であれば、消費者のほうにある程度の商品知識があり、どの程度の金額で買うのが妥当か判断できますから、定価があらかじめ明示されていたほうが楽でしょう。

 ところがその昔、ほとんどの商品は、売り手と買い手の交渉によって最終的な価格が決まっていました。

 今も海外の市場や、いわゆる「蚤の市(フリーマーケット)」などでは、丁々発止の価格交渉が必要です。

 そうした売り手との価格交渉も、市場や蚤の市でのショッピングの醍醐味と言えるかもしれませんが。

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ふっかけ価格が有効になるプライミング価格

 さて、海外の市場では、売り手が最初かなり高めの金額を呈示してくることが一般的です。

 価格交渉が前提、すなわち買い手が値切ってくることを折り込んでの「ふっかけ価格」と考えられますが、実は、この最初の高値の金額提示は、ある心理的効果をもたらしています。

 それは、最初に提示された金額を、その後の金額の高低を判断する基準として、無意識にしてしまうという心理効果です。

 簡単な例を挙げましょう。

 海外のある店に行きました。そこの店員から、自分の欲しい商品は最初「10万円」と言われたとします。

 しかし、価格交渉の末、「今回は特別大出血サービス、3万円でいいよ」となりました。最初より7万円安くなったわけですから、買い手のあなたは大喜びでしょう。

 その後、別のお店に行き、そこで欲しいと思った別の商品について、最初は「5万円」と言われ、価格交渉によって「3万円」で購入することになりました。

 どちらの場合も、あなたが支払ったお金は3万円です。しかし、どちらのほうがあなたの喜びが大きいでしょうか?もちろん、7万円も値切れた商品のほうですね。

 ここで、どちらの商品も実は3万円程度の価値しかなかったとしたらどうでしょうか?

 最初のお店では明らかに「ふっかけられていた」ということになりますが、実際の価値を知ることがなければ、最初のお店の商品に対してより「得した」という感覚を持ったまま、帰国の途につくことでしょう。

 以上の例でご理解いただけると思いますが、私たちは、最初に提示された情報を元に、そのあとに提示される情報を判断してしまう心理的傾向を持っています。

 これは、行動経済学では「プライミング効果」と呼ばれており、たとえ、こんな効果があるのだと頭で理解していたとしても、その効果から逃れることは大変難しいことがわかっています。

 昔から、悪徳商人は、この「プライミング効果」を活用し、たいして価値がないものを高値でふっかけ、価値以上の値段で売るという行為を行ってきました。

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ドナルド・トランプとプライミング効果の関係

 話は変わりますが、ドナルド・トランプ氏と先ほど取り上げたプライミング効果に、深い関係があるのをご存知でしょうか。

 今、米国の大統領選で共和党の候補に選ばれそうな勢いの不動産王・トランプ氏も、プライミング効果によって、これまで大儲けしてきたのです。

 彼は、以前以下のような告白をしています。

“部下がやってきて、(建築見積)価格は7500万ドルになりそうですという。そこで客には『1億2500万ドルかかりますよ』と言っておいて、結局は1億ドルで建ててやるわけです。要するに「ずるいこと」をやってきたわけです。でも相手は、いい仕事をしてくれたと思っている”

 トランプ氏は、この建物について、本来の価値は7500万ドルなのに、5000万ドルも上乗せし、値引いても2500万ドル余計に儲かるようにしました。

 しかも、クライアントには「値引いてくれてありがとう」と思わせているのです。

 自ら、「ずるいことをしてきた」と白状するとは、開いた口がふさがりませんね。悪徳商人ここに極まれりです。

 彼はこれまでの米国大統領レースにおいて、数々の失言、暴言を繰り返してきており、大統領にふさわしくない品性の持ち主だと私は思います。

 しかし、暴言もありつつも同時に、彼の力強さに魅力を感じる人々による支持を受けてきたのも事実です。

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プライミング効果に引っかからない知恵を持て

 ひょっとしたら、彼の暴言は一種の「プライミング効果」を狙った作戦なのかもしれません。

 トランプ氏はあえて、暴言によって自分のイメージや評判を下げておき、今後、あるタイミングで暴言を控え、まっとうな言葉で穏やかに自論を述べるようになるかもしれません。

 そうすると、「意外とまともじゃないか」と、最初の期待値が低い分、後半戦において高い評価を勝ち取る可能性があるかもしれないのです。

 今後の大統領選の行方はさておき、プライミング効果を活用してくる悪徳商人に引っかからないために、どうしたらいいかを教えましょう。

 それは、最初の価格をとにかく忘れ、最終的な購買価格だけを見て、その価格が商品の価値に照らして、妥当かどうかを検討するのです。

 類似製品・サービスを販売している会社が他にもあれば「合い見積もり」を取りましょう。

 複数の会社から提示された価格を比較検討すれば「プライミング効果」は弱まり、純粋に製品価値と購買価格との妥当性に基づく購買意思決定ができるようになります。

画像:ウィキペディア

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松尾 順

株式会社ジゾン
コンサルティング準備室 室長

早稲田大学商学部卒。マーケティング・プロデューサー。
ニールセン・ジャパン、CRC総合研究所でマーケティングリサーチ、コンサルティングに従事した後、電通ワンダーマンで、データベース・マーケティングやCRMの企画・プロデュースを経験。さらに、ネットベンチャーの立ち上げにも執行役員として参画した。

現在は、心理学、行動経済学といった消費者心理・行動の理解に役立つ学問分野の研究を活用し、売れる商品づくり、効果的なコミュニケーション開発に取り組む様々な企業をマーケティングリサーチからマーケティング施策の企画・運営までトータルに支援している。

株式会社ジゾンでは、CMSシェアナンバーワンのソフトウェア「HeartCore」の導入に伴うマーケティングコンサルテーションを担当している。

【著書】
『ブランディング戦略―ブランディングの基礎と実践 (広告キャリアアップシリーズ) 』誠文堂新光社
『[実務入門] 営業はリサーチが9割! 売上倍増の“情報収集”完全マニュアル (実務入門)』日本能率協会マネジメントセンター
『先読みできる!情報力トレーニング (ビジマル)』TAC出版

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